ゼミ合宿の思い出 その3

前回の記事の続きです。24時間ぶっ続け憲法授業の第2のテーマについて下記で述べます。

第2のテーマ:旅行業法による登録制と営業の自由(憲法22条)

一区切りがつき、休憩時間となる。すると、先ほどは出席していなかった2名のルームメイトが現れ次のテーマの授業は出るとのことだった。休憩時間も過ぎ、旅行業法による登録制は違憲か否かという内容の授業兼議論が始まる。

二重の基準論

今は亡き憲法学の大家芦部信喜は経済的自由権の規制に対する違憲審査の手法として、米国憲法学から二重の基準論とそれから派生される規制目的二分論を日本憲法学に導入した。

二重の基準論とは、精神的自由権を規制する立法に対する司法審査の基準は経済的自由権を規制する立法に対する司法審査よりも厳しくするべきだ、というものである。

それは、お金の自由である経済的自由を規制する立法(例えば鉄道法等)は選挙等の民主的手続きにより改廃することが出来るが、政治的ないし議論などの民主的な活動を規制する立法(例えば報道規制法等)が一度施行されてしまうと自由な議論が害され、結果として規制立法の改廃が困難となり、自由の回復が困難になるため、裁判所は民主的価値を有する表現の自由等の精神的自由を規制する立法に対しては違憲の可能性を前提に司法審査をすることが求められる、というものである。

規制目的二分論

二重の基準論を前提にした時、精神的自由権と経済的自由権では審査の基準が異なることになる。では、経済的自由権を規制する立法に対して具体的にどのような審査がなされるべきなのかについての回答が規制目的二分論である。

規制目的二分論とは、経済的自由権を規制する法律の目的によって審査に対する違憲推定の強弱を使い分ける、というものである。具体的には、経済政策的な規制立法については裁判所よりも国会の調査能力が高いため国会の立法判断を尊重して一見明らかに不合理といえない限りは合憲とするのに対して、国民の健康や安全等を市場経済を統制する形で保護することを目的としている立法に対しては、裁判所の調査能力でも十分妥当な判断が可能であるため、より制限的でない規制手段があるならば違憲とする、という審査基準である(裁判所の審査能力論)。

この規制目的二分論は薬事法違憲判決小売市場事件判決等から最高裁判所も経済的自由権の違憲審査に採用しているかに見えた時期もあった。

だが、その後登場した公衆浴場の適正配置規制に対する違憲審査では、規制目的二分論だけでは説明できない判断を最高裁は行った。こうしたことから、最高裁は経済的自由に対する違憲審査に対して規制目的二分論を採用していないのではないかとの疑念が生じ検証がなされた。

結果として、この領域での芦部説は現代では妥当しないということが判明した。

つまり「規制目的二分論は憲法学者の妄想だったのだwwww」教授は楽しそうにそう語った。

旅行業法の登録制について

  1. 旅行業法は、旅行業を行う者に対して登録制をひき、料金の提示義務(旅行業法12条)や営業保証金の供託義務(旅行業法7条)を課すことに等により国民の旅行サービス利用の安全を確保を図る法律である。
  2. 旅行業法は登録する事をしなければ旅行業の営業をできなくするという形で国民の営業の自由を規制している。
  3. 営業の自由は憲法上明文の規定が存在しないが、憲法22条の職業選択の自由から導かれるものと解する。すなわち、いくら自由に職業を選択できたとしても、その遂行をする自由(営業の自由)が存在しないのならば、自由に職業を選択できるようにした意味がないため、営業の自由の保障は日本国憲法が当然の事としている事柄であるといえる。
  4. 旅行業法の規制目的は旅行業の健全な発展を確保するという政策的な目的と同時に、営業保証金制度などにより国民を保護することを目的としている。
  5. 本件に対して、規制目的二分論に基づく審査をすることも考えられるが、むしろ(1)規制の目的、(2)規制対象の性質、(3)規制の態様、これらを検討した上で、規制により得られる利益と失われる利益を比較考量する事が妥当であると考える。
    1. 規制の目的について、これは先述の通り、旅行業の適正な発展と国民の保護である。
    2. 規制対象の性質について、これは旅館業を営もうとする者の営業の自由であり、基本的な経済的自由権の1つである。
    3. 規制の態様について、旅館業法は登録制により経済的自由権を制限しているが、これは届け出制のように規制の態様としては緩いものである。現に、旅館業法5条は観光庁長官に対して一定の要件に該当する者が登録の申請をした際には登録をしなければならない法的義務を負うようにし、実質的にも届け出制に近い規制態様であるといえる。
  6. こうした旅館業法の規制は旅館業の適正な発展と国民の安全を保護するために必要だといえる。他方でその規制の態様は特許性や許可制に比べても制限度合いの低い登録制にであり、失われる自由は得られる利益に対して軽微であるといえる。
  7. したがって、本件旅館業法による規制は適切である。

第3のテーマは後程記載します。

以上

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